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和巴の後を追いかけたけど、通行人が邪魔をして
匡煌は和巴の姿を見失った。
まだ心臓が激しく脈を打っている……。
体の震えも止まらない。
久しぶりに見た和巴は変わっていなかった。
話したかった……抱きしめたかった。
忘れる事なんか出来るハズがない。
こんなにも和巴を心から愛しているのにっ。
匡煌は強引に気持ちを切り替え、
本屋で静流の用事を済ませ会社へ戻った。
*** ***
何も言わずに執務室へと入った匡煌を不審に思い、
静流が後に続く。
「―― ありがと、
結構気持ちよかったでしょ? 外も」
分厚い本の入った袋を受け取った。
「まぁ、な。気分転換にはなった」
「お祭りは6時スタートだから、
5時半位に迎えに来るわね」
と、静流は戸口へ向かう。
「―― かずと会った」
「!!……それで?」
「追いかけたけど逃げられた」
「あっちは若いのよ、
親父のあんたが敵うわけない」
「……あのまま1人逃げて、
各務とも一生縁を切ろうかと考えた」
「バカ言ってんじゃないのっ。今さら何よ」
「分かってるさ。冗談だ、冗談……」
ため息をつきながら出て行った静流を確認すると、
匡煌はぐったり椅子に沈み込んだ。
あの時、躊躇せず和巴を捕まえていたら。
その足で東京を――日本を飛び出して行けたのに。
各務を捨て、ずっと一緒にいられたのにっ……。
叶わぬ事とは分かっている。
和巴がそれを許さない事も分かっている。
それでも俺は和巴と一緒にいたかった。
女々しく泣き出しそうな顔を両手で叩き活を入れ、
匡煌は残りの仕事を再開した。
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