108人が本棚に入れています
本棚に追加
「聞いてくれ、和巴、俺は ――」
「何も聞きたくない。あなたは私なんかに
関わってちゃダメなの。
私はもう……貴方の事なんて好きじゃない
何とも思ってないから」
「嘘つけ。なら ―― なら、
なんで泣いてるんだっ」
和巴の頬に熱い雫がツツッ ――と、落ちる。
「泣いて、ないっ」
「頼むから、もう1度だけ俺にチャンスをくれ」
無情にも2人の間を電車が駆け抜ける。
「あぁ、くそ……っ」
イラつく匡煌。
電車が駆け抜け、匡煌が遮断機を持ち上げた時
……既に和巴の姿はなかった。
「かずっっ!!」
匡煌は和巴の立っていた場所でキョロキョロと
辺りを見回す。
「かず、どうして……」
和巴はひたすら走り、ハウスの階段を
駆け上がって部屋の中に入った。
ハァハァと息を吐き、ズルズルとその場に
座り込む。
ガタンガタンと電車が通る度に、
カタカタと揺れる窓のサッシ。
『今は裁判所へ提出する嵯峨野書房の再生計画案の
作成で手いっぱいだろうから』と、
完全に油断していた。
もしかすると、今月末なんて悠長な事は言わず、
明日の卒業式が済み次第旅発つべきなんではないか?
と、和巴は考え直していた。
最初のコメントを投稿しよう!