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正月ぶりに実家に帰省したら、玄関に見知らぬパンプスが脱ぎ捨ててあった。
レオパード柄の派手なやつ。
今年六十二になる母親が履いていたら、「ちょっと、お母さん、どうしたの?」と言ってしまいそうになるほどのものだ。
こんなギラギラした靴を履ける女は、私の知ってる中では一人しかいない。
軽くため息をつくと、履き古した黒いスニーカーを脱ぎ、そっと隣に並べた。くたくたになったそれは、パンプスと並ぶと更にみすぼらしく見えた。
田舎の無駄に広い玄関を抜け、誰にも使われていない和室の横を通り過ぎた所で、リビングに通じる戸の向こうから、えげつない笑い声が聞こえてきた。
目眩を感じつつ戸を一気に開けると、声の主はこちらに背を向けて、テレビのバラエティ番組を楽しそうに見ていた。
栗色だった髪は更に色が抜けて、金髪に近くなっている。そしてもう十一月だというのに、素肌が見える服を着ていた。見ているこっちが寒々しい。
「ただいまー……」
荷物をドスンと畳におろす。そこまでしてやっと、彼女はこちらを振り向いた。
「あれぇ? おねえ、久しぶりじゃん」
「『久しぶりじゃん』じゃないよ! あんたいつぶりだと思ってんの!」
「えー? 二年ぶりくらい?」
「ちがう! 三年ぶり!」
「おしいね」
そう言って、パンプスの持ち主──妹の公は、きゃははと笑った。
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