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「華江さん…」
話だけでももう一度聞いてあげましょうよ~、と言いたげに声をかけてくるスタッフに名前を呼ばれた華江は、苛立ちを紛らすように深いため息をつき、そしてついに観念する。
「分かった! 分かりましたから…誰か、彼女を呼んできてくれるかしら」
徳川亜李栖。 …その名前を聞いた時に彼のことを思い出すべきだったと華江は心の中で後悔した。
チャペルの扉を肩で押し開けるような格好で姿を現した男を見て、華江は逃げ出したくなるような思いに駆られていた。
(よりにもよって…!)
──闇夜の狂犬、とは、良くできたたとえだと思う。
こんな片田舎では珍しい有名イタリアブランドのスーツを嫌味なく着こなし、見る者を圧倒する雰囲気を纏うこの徳川隆弘は、一代で系列会社を何社も立ち上げ、年商四百億円を生み出している敏腕経営者として、その界隈でナンバーワンの知名度を誇っていた。
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