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しかしそれは同時に、人と人との軋轢を生んだ。
強引な会社経営、人を人とは思わないやり方。
儲かると知れば法律ギリギリの危ない事業にも手を出し、関わった沢山の人間から恨みを買うように切り捨てるなど日常茶飯事で、夜は一人で出歩けないと聞く。
…そんな男が経営している会社のひとつにモデル事務所があり、過去何度か華江もそのモデルたちを使ったことがあった。
しかも、華江のサロンでバイトをしていた男の子が徳川が経営する系列のガールズバーのホステスに入れ上げ、徳川がどういう会社の経営をしているのかを耳にしたこともあり、満更知らぬ仲ではないのも確かだ。
だが。 徳川に関して、もう一つ知っていることがある。
人の噂程度にしか知り得ていない不確実なことではあるが、一定の知名度を持つ人間でなければ入会できないという『秘密クラブ』を運営していると聞く。
そんな怪しげな男とは、実際の所…関わりたくないというのが華江の本心なのだが…
(…あの人が…亜李栖ちゃんの…?)
狂犬の名を冠した男は三十後半になっても独身、ということは、周知の事実。
その男に手を引かれ、バージンロードを白杖をついて歩いて来るライトグレーのスーツを身に纏う細身の男を見て、彼が亜李栖の父親だと認識した華江は、心の底から嘆息した。
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