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「あたしがみんなにお願いしたの」
「…亜李栖」
ギィ…とチャペルの重い扉を徳川の運転手兼ボディガードの沢村に押し開けてもらい、昼間の明るい日差しの中、小学校の制服姿で現れた亜李栖の声に、耳だけで自分の娘の声を聞き分けた徳川裕聖がその名を呟いた。
「パパ!」
「このお転婆娘、…今度は何を企んでやがる」
窓一つない、重厚な雰囲気が漂うチャペルの中へ駆け入って来た亜李栖はまっすぐに祐聖の腰元に抱きつき、その傍へ戻って来た徳川を見上げ、睨んだ。
「お父さんはパパのこと、なんにも分かってない」
「…何だと?」
徳川が一番近づきたくなかった『教会』などというものがある場所へ祐聖ごと連れ出した主犯の亜李栖に睨めつけられ、徳川はこめかみに青筋を浮かべて凄む。
一般人であれば一発で記憶を飛ばしかねない徳川の凄みを亜李栖越しに見た沢村が思わず尻込むほどの眼光を、亜李栖は何でもないという風に受け流し睨み返すと、祐聖に抱きついたまま口を開いた。
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