困窮する士族

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明治十一年。 徳川幕府が薩長に敗れて、 武士は平民と同列の士族になり、 刀も録も奪われて困窮を深めていた。 この佐賀家も元は、 肥前藩に代々仕える武士の家系だったが、 廃藩置県により主君が華族となり、 主従関係を失ってしまったのだ。 だが多くの士族がそうである様に、 当主の佐賀分之助も武士の矜持が邪魔し、 商売が上手くいかず、 たちまち貧乏になってしまった。 「えぇい町人ども!何故拙者の刀の鍔を買わぬ!? 眼帯にも出来るのだぞ」 「あなた、そんなに隻眼の平民は居ないわ! いいから農家から譲られた草鞋を編んで!」 神風連の乱と西南戦争で敗走後、 一切商才の無い父分之助と、 近隣の百姓からの内職で支える母お良。 一人娘のお(よう)は、 包丁を研ぐ内職に励むも苦々しい気持ちだ。 「父上、母上、何か我に出来る事は、 御座りませぬか?」
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