9人が本棚に入れています
本棚に追加
明治十一年。
徳川幕府が薩長に敗れて、
武士は平民と同列の士族になり、
刀も録も奪われて困窮を深めていた。
この佐賀家も元は、
肥前藩に代々仕える武士の家系だったが、
廃藩置県により主君が華族となり、
主従関係を失ってしまったのだ。
だが多くの士族がそうである様に、
当主の佐賀分之助も武士の矜持が邪魔し、
商売が上手くいかず、
たちまち貧乏になってしまった。
「えぇい町人ども!何故拙者の刀の鍔を買わぬ!?
眼帯にも出来るのだぞ」
「あなた、そんなに隻眼の平民は居ないわ!
いいから農家から譲られた草鞋を編んで!」
神風連の乱と西南戦争で敗走後、
一切商才の無い父分之助と、
近隣の百姓からの内職で支える母お良。
一人娘のお葉は、
包丁を研ぐ内職に励むも苦々しい気持ちだ。
「父上、母上、何か我に出来る事は、
御座りませぬか?」
最初のコメントを投稿しよう!