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「お誕生日おめでとうございまーす!」 クラッカーの音が室内に鳴り響く。 テーブルをはさんで向かい側には職場の先輩の柊 美里が座っている。 今日は先輩の誕生日。特に予定もないとのことなので、せっかくだし女二人で誕生日を祝おうと 先輩の部屋に来たのだが…。 「30越えたらめでたくもなんもないわ」 クラッカーの残響も鳴りやまぬうちに先輩が仏頂面でそう言った。 部屋の空気が冷える。 テーブルの上ではバースデーケーキが居心地悪そうに鎮座している。 会社からの帰りに、勢いで買ってしまったホールのけっこうでかいやつだ。 テレビの音だけが室内に響く。 デートで行きたい店トップ10とかをやっていて気まずい。 チャンネルを変えるのも変に気を遣っているみたいだし…。 「お酒開けましょうお酒!」空気を変えようと大きめに声を発し、スパークリングワインの瓶に手を伸ばす。 すると「杉山は彼氏いるんだっけ?」と先輩が私に聞いてきた。テレビのほうを見ながらなので表情はわからない。 「ええ…まあ」 「いいよねー」と先輩。 「いやいや、別にそんな、大してうまくいってないですし」言いながら、すごい勢いで汗が出てくる。スパークリングワインを開けようとする手がわちゃわちゃしてうまくいかない。 「そう…余裕があっていいねえ」 言葉はそう言っているが語調にはトゲが感じられる。 「先輩はどうなんですか?そのへんは、誰かいい人とか…」 「…あ゛?」 先輩が鬼の形相で低い声を発した。 その短い音の中に答えが込められていた。 再び部屋の空気が凍り付く。 安易にキャッチボールを返して地雷をまっすぐに踏み抜いてしまったようだ。 先輩がこちらをにらみつけている。 「…いると思う?」地獄から響いてくるような先輩の声。 「誕生日に、昔の男からもらったネックレス捨てられずに着けてる女に、誰かいい人が…??」 思わず先輩の首元に目が行く。そこには先輩がいつも着けている金色のネックレスがぶら下がっていた。そうか、あのネックレスにはそんな来歴が…。 私はこの部屋に来たことを後悔していた。
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