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「馬鹿のひとつ覚えで同じよーな女ばっかひっかけてさ!たまに道歩いてると前から自分と似たような格好の女が歩いてくるわけよ」先輩のボルテージは上がりっぱなしで、足元にはすでに役目を終えたスパークリングワインの瓶たちが転がっている。
「そいつの首元見ると、金キラの、趣味の悪い、やっすいネックレスしてるわけよ!」先輩がグラスを持って立ち上がる。もちろん、その首にも趣味の悪い金キラのネックレスがかかっている。
「お互いに目ぇ見合わせて、そうかーっ つって!お前もヒロシに選ばれし戦士かっつって!」グラスを振り回し先輩。スパークリングワインがふりまかれる。
「先輩、落ち着いて!」私も立ち上がり先輩をなだめようとするが全然止まらない。
「おし杉山!仲間を探しにいくぞ!選ばれし者を!」そう言って先輩は台所のほうへざかざかと向かっていく。
「ちょっとちょっと、どうするつもりですか?」
「決まってんだろ!倒すんだよ!あたしらで、ヒロシを!」先輩は完全に目が据わっている。
キッチンで包丁を取ろうとするその手を全力で制止する。
頭の中に一瞬、黒髪で黒い服を着た女性が何人も集まってヒロシを倒しに行く図が思い浮かんだ。『ヒロシクエスト』というタイトルも入れてみたが、ちっとも絵面がファンタジーにならない。
選ばれし戦士たちの装備は安いネックレスに全身黒の服だし、持ってるのも剣じゃなくて包丁だし。
そこまで考えたところで現実の先輩も包丁を装備していた。
「先輩!先輩ストップ!」右手を前に突き出し、先輩をなだめる。
「なによぉー!ヒロシを殺して、あたしも死ぬのよー!!」
「せんぱい、落ち着いて!落ち着いて…!」
先輩は泣きじゃくり、その顔は真っ赤だ。
興奮のせいか、泣いているからか、酒のせいか、多分その全部だ。
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