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Lost Narcism
彼は私が想うように私を想ってはくれない。
想いを捨てられず、告げることを諦め、求めもしない。
彼はただそこに居るだけの存在。
組み敷いた身体が、冷たい床に投げ出される。髪は無造作に散り、服の開けた間からは、白い肌が覗く。その上に幾つもの赤い痕が鮮やかに浮かんでいた。
合わせた手のひらからは温いぬくもりが伝わり、自然と力がこもる。
傍から見れば、恋人同士が想いを確かめ合う温かな光景だろう。
けれど実際は違う。
彼の瞳は虚ろで、目の前で組み敷く相手の姿など眼中にない。それどころか、何も見る気などないだろう。
為すがまま、為されるがまま、彼の肢体は柳のように揺れている。
意思のない彼に果たして心はあるのだろうか。
喉の奥で詰まった言葉が思わず出そうになる。
辛苦に歪むこの顔は彼にはどう映るのか。
その答えを聞きたいような、しかし聞きたくない相反する思いが彼を揺らす身体を激しくさせる。
切なさと憤り、そして遣る瀬無い行為からの幻聴だろうか。不意に喘ぎ声しか漏らさなかった口から、微かに声が聞こえた。
胸を激しく上下させ、湿った息の合間に聞こえたのは、間違いなく久方に聞く彼の声。
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