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なぜかうらやましいあいつ
ご主人は散歩ではなく、私とあいつを一緒に連れ出すことがある。
四角い大きな箱の後ろがわに私たちをのせると、ご主人は前に座り、まあるい何かを掴む。
すると突然体に不思議な圧力がかかり、景色がすごいスピードで去っていく。
行き先は大体が白い服を着た、ご主人と同じ生き物がいる場所。
そこでは何か台に乗せられて、また帰っていく。
一度はそこで一晩過ごしたこともあった。
あいつといつもより狭い四角い場所にいた。
ご主人がいなくて寂しいが、あいつが横にいた。
いや、決してあいつがいたから寂しくないわけではない。絶対に違う。
その箱に乗るとき、私は怖くてよく小さな声をあげた。
「歌ってるの?」
ご主人が私に声をかける。
誉められたのか。
そんな私へのご主人の注目をそらすのはあいつだ。
体にかかる不思議な感覚で体が前に後ろにされるのだが、あいつは前に行くときかならず柔らかい席の隙間に転がり落ちる。
あわてて登ってきてキョロキョロする。
私は内心笑うのだが、ご主人はさらに面白そうに笑う。
「お前は不器用だね」
あいつめ、情けない姿をさらして注目をされるな。
注目をされるのはもっぱらあいつだが、私がご主人を困らす好きなことがひとつある。
箱の中の横に、何やら窪みを踏みつけると。
ウィーンと音がして、透明な壁が開いていく。
そこから吹き込む風が気持ちいい。
「あっ、こら!」
ご主人が気づくと、壁は再びしまってしまう。
まあ、このときは嫌われてもよいほど気持ちいい。
しかし、だ。
あいつは横でわたしが開いた壁の先からの風を勝手に楽しむ。
あいつは足が太すぎて窪みをうまく押せない。
自分でやればいいのに。
損な役割はいつも私。
内心怒ると、あいつはまた隙間に転げ落ちている。
ご主人は楽しそうだ。
私もわざと落ちてみようか。
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