1人が本棚に入れています
本棚に追加
ご主人を一人じめ
あいつは次の日も帰って来なかった。
その次の日も帰って来なかった。
そのまた次の日も帰って来なかった。
毎日戻ってこなかった。
最後のあいつは歩けなかった。
走り回っていたのが嘘のように。
這いずり回っていた。
ご主人と二人きり。
膝は乗り放題だった。
待ちに待ったこのとき。
私は好きなときに、好きなだけご主人の膝を堪能した。
楽しいはずだったのに。
それは、 いつもより楽しくなかった。
よくわからないが、どこか物足りない。
いつもなら膝を取り合うあいつがいた。
そうだ、確かに。
一人じめすることが嬉しいのに。
そこにはどこか足りないのだ。
あいつは次の日も帰って来なかった。
また帰って来なかった。
帰ってこない日が当たり前になり、今日も帰ってこないのかと思うことが日課になった。
ご主人は私のことを可愛がってくれる。
膝に乗った私を撫でてくれる。
「大丈夫、きっと」
ご主人はよくそう言った。
そしてその日もあいつは帰って来なかった。
もう、帰ってこないのか。
歩けなくなったあいつは、どこか遠くへ行ってしまったのか。
そうかもしれない。
ご主人のいない時間、それが長い。
四角い場所は広かった。
体を伸ばしてみると。
のびのび寝れた。
あいつがいた場所は、すぐとなりにある。
そこが広く広く感じる。
私は理解した。
あいつは戻ってこない。
きっと、そういう出来事だったのだと、そうわかった。
最初のコメントを投稿しよう!