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私が聞くと、女性は線路が伸びている方へ視線を向けた。山の傾斜にそって伸びている線路は、しばらく行ったところで緩やかにカーブしたあとにトンネルの中へと続いている。一本しかない線路は、言われなければ今もまだ鉄道として機能しているとは思えないほど古びている。
「きっと、来ないです」
「えっ」
「雪が降ると、すぐ止まっちゃうんです、ここの汽車は」
そう言って、彼女は申し訳なさそうに苦笑いをした。
「こちらには何の用事で?」
今度は女性が私に聞く。
「ただの観光ですよ」
「まさか。こんなところに観光地なんてありませんよ」
「いやいや。こんな素敵な景色があるじゃないですか」
「それは……まあ」
私の言うことを、彼女は否定しなかった。
「写真、お好きなんですか」
私が聞くと、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「ええ。大した腕前ではないですけど」
「差し支えなければ、見せて頂いても?」
「もちろん」
彼女が渡してくれたデジタルカメラを両手で受け取って、簡単に操作方法を教えてもらってから、順番に写真を見ていく。写真は今年の冬に入ってからのデータが入っていて、雪景色を撮っているものが多かった。
「雪が好きなんです。こうやって雪が降った日には、いつも撮りに出かけていて。あっ、それはこの前たまたま撮れたものです」
両側から迫る白い森に挟まれた広い道路、その真ん中に立つ狐が、凛とした様子で空を見上げている写真。
「綺麗ですね」
「ええ、お気に入りの一枚です」
彼女は興奮気味にそう言った。
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