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校内放送の声の主は3年生の長峰恭子。そして呼び出された先は生徒会室。行けばどうなるかぐらい、もう金村もわかっている。さすがの彼も、まだまだ力不足は否めないまでも、少しはこの1年で学習したのだろう。
「無視したらあとが怖いぞ」
「先輩、今日が最後だろ? 次の登校してくるのって、卒業式の予行じゃん」
これから最後の学年末考査が行われる1、2年生と違い、3年生はすでに自由登校になっている。その登校日も今日の送別会が終われば、あとは卒業式の予行演習と本番の2日のみ。
「行ってあげろよ」
「なんで俺が? お前ら、他人事だと思って楽しんでるだろ!」
絶対に行かないと言い切る金村はコートを脱ぎ始める。それこそ校内放送なんて聞こえなかったことにすればいいと言い出したのには、クラスメイトたちも、彼にしてはよく考えたものだと感心するどころか拍手まで贈り、その成長ぶりを称える。
「あら、金村のくせに学習してるじゃない」
不意に、金村を囲むクラスメイトの輪の外から掛かる声に、全員がハッとして一斉に振り返る。そこには女子生徒が1人、囲む男子生徒たちの肩越しに金村を見て仁王立ちしていた。
私立松前学院高等学校2年生、古城絵里である。
「そんなこともあろうかと思って、迎えに来てあげたわよ」
そう言って彼女が一歩進むと、囲みが割れて金村までの道が開ける。
「あの、先輩?」
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