scene 2 私立英華高等学校 ー明澄の道

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 その松藤学園が、もし自ら 「桜花最凶の貧乏クジ」 を引くことを選んだとしても、中央区をとりまとめる央都・英華の差し金ではないかという憶測は瞬く間に桜花中に広まり、さらなる波紋となって混乱させることは間違いない。それこそ黒薔薇の女王陛下の思う壺である。  わかっていてその愚を犯せるかと問われれば、東山の答えは 「(いな)」 である。選択の余地のない問いに、東山は悔しさを噛みしめる。 「裏央都・松藤」  忌ま忌ましさのあまり思わず舌打ちをする東山に、有村の厳しい叱咤が飛ぶ。  だがそれでも東山は抗議を続ける。彼は、それこそが自分がここにいる理由だと思っているから。 「今の央都は英華だ。公然とは言え、裏は裏。松藤が央都を差し置いて出しゃばるとは思えない。桑園(くわぞの)はそこまで見越し、今年度の央都を譲ったのかもしれない」  私立松藤学園生徒会会長、桑園真寿見(くわぞのますみ)。実直な椿と違い、その柔和な容姿で周囲を惑わし続けた彼が、本当にそこまでを考えたかどうかはわからないけれど、考えていたとしてもおかしくはない人物である。 「あの変質者」 「お前も桑園のうわべに騙された口か? そんな調子では、奴の代行になっているあの2年にしてやられるぞ」 「会長同士の小競り合いは花園に任せます。  俺の役目は雑魚を叩き潰すことですから」  雑兵を叩き潰し、大将を敵将まで辿り着かせる。それが自分の役目だと東山は言う。     
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