シャスタイン王国

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広々と美しい緑が眩しい中に、空色を映し出す湖が広がる。 北欧の秘境とも揶揄されるこの国は、シャスタイン王国という。 厳しい冬が過ぎて、花の香が舞う季節となった。 王国を統治する国王が暮らすのは、国旗がはためく城。 城は湖畔から離れた森の中に、凛とその存在を誇る。 城に従事している庭師、シモンは汗を流しながら池の苔を払っていた。 小道を散策する小さな男の子と、その母親が歩いて来る。 シモンは、その話し声を聴いて仕事の手を止め立ち上がった。 汗と泥で汚れてしまっている顔を、軍手を履いた手で拭う。 そして、軍手を帽子を脱ぎ捨て駆け寄ったのだった。 会いたくて堪らなくて、月を見上げては願った瞬間。 「リサ!」彼女に届くようにと、声を張り上げた。 お互いの視線が交差する。 リサと呼ばれ、目の前に現れた男が誰なのか気がついたようだ。 「エリアスっ?!」 「リサ、ああ、会いたかった……っ」 「なぜ、どうして?!」 「君に会うために、名を変え庭師となって城に潜り込んだんだ。君はあの頃のまま……綺麗だ」 エリアスは薄汚れた指先で、リサの頬に触れた。 ――――――――――――
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