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「寒いね。」
思わず零れ落ちた呟きを器用に拾い上げ、先ほどまで真剣な表情でファインダーを覗いていた少女は、声の方へと振り向いた。
粉雪が舞う早朝の公園、吐く息は白く、空を舞う淡い雪は可憐な彼女の黒髪を、白いパウダーで彩るかのように、優しく降り注いでいる。
今朝の気温は氷点下、震えるほどの寒さだというのに、彼女はとても元気そうだ。曇った眼鏡の奥の瞳がキラキラしていて何とも眩しい。
「毎日毎日、ここに写真を撮りに来るなんて本当に好きなんだねぇ。」
「そりゃ、この場所で写真を撮るのは、私のライフワークですからね。」
そう言って彼女は、曇ってしまった眼鏡を外し、優しくカメラを撫でた、亡き父の形見であるそのカメラは彼女の大切な宝物なのだ。
「たとえ、猛暑でも、台風が来ても、今日みたいな雪が降る日にだって、私はここにきて、父と母が初めて出会った大切なこの場所を、父のカメラに収めるつもり。」
そのカメラの容量が、尽きるその日まで。
彼女は毎朝この公園に来て、両親の思い出の場所である桜の木を、撮り続けるのだろう。
「冬の桜に、積もる雪もまた一段と風流だわ。」
微笑んで彼女はまたファインダーを覗く。
そんな優しい光景を見守りながら、私は手のひらを温め続けているお汁粉を一つ、いつ彼女に渡そうかなんていう、幸せな迷いをするのだった。
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