高貴な種族の誤算

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 そしてそれから約1000年。  人知れずヴァンパイアは蘇った。しかし、ヴァンパイアにとって大きな誤算が生まれていた。  それは 「おかしいなぁ、いつまで待っても空が暗くならないんだけど……」  約1000年の間に一体何があったのか? この国は1年中が白夜となり全てを飲み込む様な暗い夜が来ることが無くなっていた。  そんな事を知らないヴァンパイアはとにかく暗い夜が来るのを邸の中でひたすら待ち続けた。それは時間にして8760時間。 「何!? 何なのッ!? この国は夜が来なくなっちゃったのッ!?」  約1年の間、暗い空がこの国を覆う事をひたすら待ち続けていたヴァンパイアだったが、いつまで経ってもそんな日が訪れる事がない為、遂にしびれを切らし悲壮な叫び声を上げた。 「どうしよう…。このままでは俺はここから一歩も…」  誰も知らない場所にひっそりと建つ暗い邸。そこで目覚めたヴァンパイアはその邸から出る事が出来ないでいた。  何故なら窓から差し込む白い光が8760時間、つまり1年もの間途絶える事が無かったからだ。 「明らかに今は夜だと思うんだけどなぁ~…どうして暗くならないんだろうなぁ~…」  しばらく首を傾げていたヴァンパイアにある考えが過った。  それはヴァンパイアにとっては恐ろし過ぎる「白夜」と呼ばれる明るい夜の事。 「まさかと思うけど…この国って毎日が白夜になっちゃったりしてない…よね? イヤイヤ、そんな事ないだろ。昔、この国には暗い夜が来ていた。その夜に俺は人間達を襲っていたんだよな。だから多分、イヤ絶対…辛抱強く待っていれば必ず暗い夜が来るはず。…でも1年間毎日が白夜だったよな。1年の間ずっと白夜だったと言う事は………」  ヴァンパイアは「1年中1秒たりとも空が暗くなる事はない国に蘇ってしまった」と言う事に呆然としていたが、ある決意を秘めゆっくりと立ち上がる。 「暗くないだけで夜は夜。きっと大丈夫だ。覚悟を決めてこの夜の白い光に触れてみよう」  ヴァンパイアは意を決して窓から差し込む白い光の部分に足を踏み入れた。  ジュッ…!  そしてヴァンパイアの右足は爛れた。
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