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「これは……」
さすがに爪先がこちらを向いたまま
入室の一歩手前で征司は立ち止まった。
だがそんなのほんの一瞬だ。
「やれやれ……何の余興が始まるんだ?」
だって王様の辞書に後退の文字はないから。
持っていらした紙袋を
無造作にテーブルに放ると。
「1人でも十分厄介な奴の、コピー人間がいるとは」
気の利かないホストに変わって
ご自分でシャンパンを注いで
窓辺を背にしたソファー身を投げる。
「あの、お兄様……」
「いいから座れよ。立ちん坊で話をする気か?」
まだ本調子じゃないのかもしれない。
ネクタイを緩める
征司の顔色はこころもち青白い。
ことりが呆けたように立ち尽くす僕の袖を引いた。
「ん、ああ……」
自分が言い出したくせに。
しっかりしなさいよとその瞳は告げていた。
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