第一章 一足違い

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何事もない日が数日過ぎて、桜の花の咲くころになってきた。 句会の連中から花見の誘いが来る。 まだ少し早いが、近くの神社の裏に数本の桜がひっそりと咲いている。静かな所で花見でもしようじゃないかという。 徳衛門はいくらか迷ったが、やはり承知してしまった。 きっと若菜も来るだろう。 徳衛門にはこの頃一つの考えが付きまとっていた。 自分は若菜を恋い焦がれてしまったが、若菜の方はひょっとして 自分の事など何とも思ってないのじゃないか。 いつの間にか若菜も同じ気持ちだと思い込んでいるが、そうだと言う証拠は何もない。きっと何とも思ってないに違いない。それを確かめれば、この愚か者の眼も覚めよう。 だが、自分の予感の通り、若菜も同じ思いだったらどうしたらいいのだ。いや、まさか、そんなことはあるはずもない。 鏡をみてみるがいい。老いさらばえて、しわだらけだ。 白髪の混じった髪はどうだ。 こんな爺さんに若い女が恋をするはずがないではないか。 image=511989119.jpg
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