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花壇の少女
校舎の脇にある花壇。いつ見ても女生徒がそこにいる。
園芸部に所属している子が、朝も夕方も花の世話をしているんだろうか。
誰にも迷惑をかけず、熱心に花壇の世話をするその子を見て、俺は大変だろうなと感心したが、世の中、そういう感想の人間ばかりじゃないらしい。
ある日、その子が数人の生徒に絡まれている現場を目撃した。草花を育てることの何が気に入らないのか知らないけれど、『いい子ぶるな』とか『目障りだ』とか言いながら、その子の前で花壇を荒らした。
それを見ていたのに、絡んでる連中が悪そうな奴らだったから、俺は怖くて見て見ぬフリをしてしまった。
翌日から、花壇を世話するその子の姿を見かけなくなった。そして同じ時期から、校内で色々とおかしなことが起こるようになった。
誰もいない体育館から笑い声がしたとか、教室を出たら廊下が真っ赤に染まっていて、見直したら元に戻っていたとか、そういった奇妙な噂があちこちでささやかれる。
中でも噂に上る回数が多いのは、あの花壇に見たこともない奇妙な花が咲いていたとか、花壇に入り込んだ鳥や他の小動物が姿を消したとか、ともかく花壇にまつわるおかしな話だ。
それに追加でもう一つ。
以前は毎日花壇の世話をしていた女の子がいなくなった。花壇におかしな噂が立つようになってから、あの子はどこのクラスの子だろうと気にかける者が現れ、色々尋ねて回ったが、あの子はこの学校には存在していなかった。
あの子はいったいどこの誰だったのか。どんな理由で花壇の世話を続けていたのか。
そして、あの子が花壇に関わらなくなったせいで、この学校はどうなってしまうのか。
あの日、絡まれるあの子を見て見ぬフリでやり過ごした。そんな俺に今後を案じる権利はないんだけどな。
花壇の少女…完
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