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「おっはよう桜!」
「……朝から元気ね」
「もちろん、それだけが取り柄ですから」
「優璃の良いところはそれだけじゃないと思うのだけど」
いつものように待ち合わせ場所にいる彼女に声をかける。と言っても、今日から目的地は新しい学校へと変わっている。着慣れたセーラー服に別れを告げて、新しくブレザーを身に纏った彼女は前よりも大人になっていた。私も少しはそう見えるかと思ったのだけど、鏡に映っていたのはいつもと変わらぬちんちくりんだった。
「入学式だよ、テンション上げていかなきゃ!」
「あんまり眠れなかったの」
「楽しみで?」
「不安で、よ」
そう言う彼女の目元には確かに僅かだが隈ができている。昔から何かと心配しいな彼女はクラス替えや入学式の前日は必ず余計なことを考えてしまうらしい。その性格をのおかげで私はあの笑顔が見られたのだが。
私が1歩足を踏み出すと、彼女も示し合わせたかのように動き出す。自然とゆっくりになる歩調を2人で合わせながら、他愛のない話をしていた。
「実は、入学式に桜が満開になっているのを見たことないのよね」
ふと一陣の風が吹いて花びらが散った様子を見て桜は呟いた。彼女の言う通り、既に花は半分以上が散ってしまって、葉桜が顔を出している。
中学の頃は滅多に使わなかったバス停に向かって、ピンク色のカーペットの上をのんびりと歩く。
頬を撫ぜる南風まで、私達を祝ってくれているようだった。
「卒業式も桜のイメージ強いよね。人気者なんだね?」
「知ってる? 桜の花言葉」
「『高貴』『純潔』『優美な女性』だったっけ」
「そうそう、私の親もそうなってほしいって名付けたらしいのよ。私、秋生まれなのに……」
「あはは、何回も聞いたよそれ。書きやすくていいじゃん」
「優璃は単純で羨ましいわ」
同じようなスーツを来た男の人がやけに多く乗っているバスに乗り、ピッと機械の高い音を聞く。車内はまだ薄らと寒さが残る外とは違って暑かった。
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