ノスリという男

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ノスリという男

 ノスリという男がいる。  年の頃は二十五歳を越えたばかりというところで、昔とは勝手の違い始めた自分の体を持て余し気味である。取り立てて秀でた才能があるわけではない。大学卒業と同時に都内の会社に就職できたのはよかったが、パッとしないままアラサーになってしまった。この先も平々凡々とした人生なのだろうなと本人は諦めている。  ただ一点、彼が変わっていたのはテレパスではないということだ。  二十一世紀を迎えた日本ではテレパスと呼ばれる者たちが半数以上を占めるに至っている。テレパスは他人の思念を読み取ったり自分の思念を送ったりすることができる。その特異な能力を活かしてテレパスは数を増やしつつあった。  その陰で非テレパスが不遇を託っている。  非テレパス  テレパスに非ざる者  時流から取り残された者たち  彼らの中には世に不満を抱くものが多かったが、ノスリはそうした不満とは縁がないようで、日本の首都東京で日常の些細な出来事に一喜一憂していた。
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