ノスリという男

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 ノスリは間にひとり置いた位置に立つと静かに息を吐いた。横目でそっと彼女の様子を窺う。彼女は変わらない姿勢で床の一点を見つめたままだ。その物憂い瞳は何を映しているのだろうか。ノスリは視線を正面に戻すと、表情を消した顔の裏で物思いに耽り始めた。  俺の思考は今こうしている間にも誰かに読まれているのだろう。このエレベーターの中には俺と彼女を含めて六人が乗っている。今の日本ではテレパスが六割を超えるという。特に会社員となるとテレパスの方が圧倒的に多いから、この場にテレパスがひとりもいないという状況はちょっと考えられない。まあそれはいい。問題は彼女がテレパスかどうかだ。
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