ノスリという男

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 場面は公園である。公園には木製のベンチが二つあって、一つには老婆とその孫と思われる二人の子供が座っている。もう一つのベンチには制服姿の少年。鞄を横に置いて膝元の端末機器に見入っている。そこに別の制服を身にまとった少女が現れる。松葉杖をつきつきやっとここまで来たといった様子で、塞がった二つのベンチを見て立ち止まってしまう。少年が気付いた。端末機器を胸元のポケットにしまうと立ち上がり、チラリと少女に視線を送って立ち去る。少女はその後ろ姿に会釈をし、ベンチに座る。一分にも満たない短い話である。 「この映像って何が言いたいんだろうね」 「さあ、譲り合いの精神を大事にしましょう、とか」 「どうしてわざわざ立つんだい。鞄を膝に乗せて詰めれば並んで座れるじゃないか」 「まあそうですけど、遠慮したんでしょう」 「遠慮ねえ。僕なら横に詰めるけどなあ」
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