軛《くびき》

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「今読んでる本の主人公がさ、渚って名前なんだけどさ、ものすごい努力で天才的な演技 をしていくようになってさ、舞台の世界をのし上がっていくんだぜ!」 「……ふぅん」 「なんだよー、紗希。つまらなそうだな」 「だって、ゆーた、デートの時いつも本の話ばっかりなんだもん。 本に嫉妬しちゃう……。」 「……あ。 ごめんごめん……。」 光のない世界の中で、ふたりの楽しそうな声を身近で聞かされる。 逃げることも、拒むこともできない。 ただ闇の中で身悶えながら、私は心を引き裂かれる。 世界の(くびき)にゆーたから引き離され、 伝えることの出来なかった言葉が、増幅してどうすることも出来ない渇望に変わる。 ーーおねがい、ゆーた。私だけを見て……。 ーーどうしたら……この想いを伝えられるの……? ーーあの女からゆーたを奪い返したい……!
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