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「はぁー? 嫌だよ、この姿勢結構しんどいんだぞ」
体軟らかくないから、我に返って脚広げてるだけでも辛いことに気づく。
「股関節のストレッチにもなるだろ?」
悪びれた様子もない。
「ストレッチなんかしなくていい」
「体をほぐすこと自体は悪いことじゃないぜ、お前もジムに通ってるから分かるだろ」
もちろん。結婚を機に一緒に通うことになった、彼御用達の高級ジムに。そこのトレーナーにも体が硬いと言われたことがあったっけ。
「それに新たな体位の開発にもなるし」
ウインクしながら言うもんだから、せっかく納得しかけた気持ちが折れた。
「それ言いたかっただけじゃねーか」
「まぁまぁそう言うなよ、日本には数百年前から伝わる伝統の体位があるらしいじゃないか。なんだか50個近いと聞いたが」
「それは」
四十八な、と言おうとしてグッと飲み込む。本当にこいつの探究心というかなんというか。呆れてモノが言えない。
「いろいろなことに一緒に挑戦して、もっとお前のさまざまな顔を引き出したい」
そう目をキラキラさせながら言われると、なんだか無碍に断ることもできず……。
本当ダメだよな、俺。こいつが喜ぶことにノーと言えない。
「わかった。体がほぐれるまで待って……」
真っ赤な顔をなるべく見られないようにしながら、呟くので精一杯だった。
2:side I 終わり
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