幻の本を求めて

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お互い気付かず、遠慮なくぶつかったせいで、地面に尻餅をついてしまい、あまりの痛さにすぐには立ち上がれない。 痛みと衝撃で閉じてしまった目をゆっくり開けると、俺とぶつかった相手の周りにたくさんの本が散らばっている。 かなり固い何かにぶつかったと思っていたけど、ハードカバーの分厚い本にぶつかったからだったのか。 俺もぶつかった非があるので、近くにある散らばった本を集めて相手に渡そうとしたが、どうやら別の本を入れていた紙袋の底が抜けたらしく、全ての本を抱えて帰るしかないようで、さすがに渡して別れるのも気が引ける。 本当はあまり別の時代の人とは関わってはいけないんだけど、ここで無視するのは人としてどうかと思い相手に声をかけた。 「あの、大変でしょうから、俺も半分運びますよ。かなり重そうな本ばかりだし…」 「いやいや、見ず知らずの方にご迷惑をかけるワケには…」 「ぶつかった俺にも非があります。それに困った時はお互い様って言うじゃないですか?」 俺達の時代では、困った時は個人の責任となっていて、思いやりのある諺は化石以上に古い言葉として、誰からも忘れ去られて、稀に文語学者が死語だと前置きした上で少し語る程度だ。
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