幻の本を求めて

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半分無理を通すようにして、重たい本を二人で息を切らしながら、何とか相手の家の自室に運び込む。 息を整えながら、部屋を見渡して分かったことは、家は広い方だけど、この人の自室は小汚い。 古いけど、どっしりとした本棚にはぎっしりと本が詰まっていて、入り切れない本は畳の上に無造作に積まれていて、うっかり触れようものなら、即座に倒れて本の山に埋もれそうだ。 本好きなのは分かるが、何となく読書家に見えないのは、部屋の小汚さだろうか? しかし、本棚にある本はきちんと順番通りの巻数で並んでいるし、作者もあいうえおの五十音順で並んでいるのを見ると、一部は几帳面なのかもしれない。 それでもこの本棚から、一冊を取り出すのを想像するだけでも、読書が億劫になりそうだ。 ぎっしりということは奥行きもあるワケで、もし名前の最初が"お"で始まる場合は、奥の方から取り出す為に、前にある"あ"から"え"までは全部取り出す必要がある。 その取り出す手間と片付ける手間を考えると、憂鬱になってしまう気がした。 本棚に並んだ本を眺めていると、井土居 芙蓉の本が何冊か並んでいて、思わず大声が出ていた。 「井土居 芙蓉の本だ!!」
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