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プロローグ
「では、簡単な自己紹介と絡めて、弊社を志望される動機をお聞かせ願えますか」
人事部長が志願者に問うと、その若い男性はぴっと背筋を伸ばした。
「あ、はい。えっと」
んんっ、と軽く咳きこむように喉を整える仕草は、品が良くて好ましかった。
わたしと同い年くらいかな。
まだ目を通していない志願者の履歴書と職務経歴書を、隣り合って座っている人事部長の机からそっと引き寄せた。
採用面接のときはいつも、人事部からひとり、配属希望の部署からひとり、面接官を務めることに決まっている。
わたしたち第一編集部からはいつも課長が同席しているのだけれど、今日は彼の病欠のため、急遽わたしになったのだ。
その中途採用志願者の名前を確認し、わたしは一瞬頭が真っ白になった。
――――芳賀隆生?
「芳賀隆生と言います」
記憶にあるよりずっと低い声が、鼓膜に届いた。
「自分が出版業界を目指そうと思ったのは、一冊の本がきっかけでして……」
わたしの旧友だった男は、品の良い笑顔を保ちながら語り始める。
その左眉の上には、セピア色の大きなほくろがあった。
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