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「その本、いっつも読んでるね」
休み時間にひとり『さよならはみどりいろ』を開いていると、隣りの席から隆生が声をかけてきた。
「うん。大切な本なの」
「へー、なんで?」
「おじいちゃんが作った本なんだ」
「え、まじで?」
「もう死んじゃったけど」
「そうなんだ……すごいね」
隆生はしみじみと言った。
ああ、やっぱりクラスの男子とは違う。
わたしは少しどきどきしていた。
隆生は席を立ってわたしの目の前に立ち、見せて、と手を伸ばしてきた。
手渡そうとしたそのとき、
「そいつおかしいんだよ、隆生」
クラスの悪ガキ、健治の声がした。
体の大きな智成もいる。
いつもいつも、髪を結わえたゴムやリボンを取ろうとしたり、スカートめくりをしたりしてくる、最も苦手な男子たちだった。
「幼稚園児みたいな絵本、いっつも持ち歩いてるんだぜ。ばっかみてえ」
健治が隆生の肩に腕を回し、甲高い声で笑った。
「ちがうもん。ちゃんと『たいしょうねんれい 10さいまで』って書いてあるもん」
普段ならうつむくだけなのに、隆生の前で馬鹿にされた悔しさでカッとなり、本の裏表紙の文字を健治に指し示した。
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