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久しぶりに降りた駅前のロータリーは閑散としていた。埼玉のそれ程田舎ではないこの地方都市にも、過疎化の波は確実に押し寄せ寄せている。
村山がこの町に戻ってきたのは、遺伝情報開示の為だった。村山が生まれた年、すなわち今からちょうど20年前に、遺伝情報保護法が施行された。それは、新生児の全ての遺伝情報を保護することを目的にした法律で、20歳を迎えた年に本人に限って自らの遺伝情報を取得することが出来るということになっている。
遺伝子はその持ち主の殆ど全てのことを語り得る。
将来どんな病気にかかる可能性があるか。
どんな職業に適性があるか。
どんな相手と結婚するのが良いか。
それを知っている方が、知らないよりも明らかに有利に人生を進めることが出来る。それは自分の取扱説明書であり、人生の万能な攻略本みたいなものだ。
駅から少し離れたところにあるその市役所へは路線バスで行くことにした。久しぶりに乗るバスに少し緊張しな がら並ぶ。列には老年の夫婦と学生風の眼鏡の若者が1人いるだけだった。
数分バス停のヒサシの下で待って、バスは時刻表通りに到着した。降りて来る乗客もやはり疎らである。全国で路線バスが次々と廃止される中で、この路線も税金に支えられてギリギリのところで成り立っているのだろう。
先に並んでいた老夫婦と学生は慣れた様子で電子カードにタッチをしてバスに乗り込む。村山も倣って電子カードを使い、バスに乗り込む。
学生は吊革につかまりながら、片手で英単語帳をめくっている。彼は未だ自分の運命を知らない。自分がどの程度外国語を憶える才能があって、それを使う職業に就く適性があるのかどうか。努力することは無駄ではないが、しかし、遺伝子そのものを変えることは出来ない。
村山は、もっと早く遺伝情報を教えて貰えれば良いのにと思う。20歳という年齢は、多分遅すぎる。もっと早く分かっていれば、無駄な勉強や無駄な恋愛をしなくて済むではないか。得意な才能を磨き、相性の良い相手に恋をする。効率的な青春を送ることが出来るというものだ。欧米では17歳で知る権利があるというのに、日本は未だに大人の定義を20歳にしたまま譲らない。
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