金持ちの遊戯

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 「お願いだ! どうか、この本を1000万円で買い取ってくれ!」  ある日の夕方、そう言って男が私に差し出したのは、一冊の本だった。だが、ただの本ではない。これは『記憶の本』なのだ。  「いや、500万でもいい! 兎に角金が必要なんだ! 300万でもいいから、俺の記憶を買い取ってくれ!」  私の手に本を握らせると、地べたに頭を擦り付ける様にしながら、そう哀願する男。私は、そんな男を見下ろしながら、この本を如何すべきか考えていた。  『記憶の本』ーーそれは、2300年初頭から、私達富裕層の間で流行り出した一種の娯楽だ。ある特殊な装置を使い、人間の記憶を、本へと抽出するのである。そうして、その本を読むことで他人の記憶を覗き見、楽しむのである。  特に、過去に犯罪歴がある者、或いは肉親や親しい友人、恋人を亡くしている者の記憶等は最高だ。彼らがその時味わった悲しみや苦しみが手に取る様に伝わって来るのである。そうして、大抵そう言う記憶の本は普通の金持ちでは手に入れられない様な、驚くべき高額で取引をされているのだ。  
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