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六月のある日のこと(零)
私が死んでから、誰も私に気づかなかった。独りぼっちは子どもの頃から慣れていたから、何とも思わなかった。
雨は嫌いだった。服を汚すなとおばさんが怒るからだ。だからあの日も濡れないように、境内の隅で座っていた。そしたら、あの人が傘を差し出してくれた。
「濡れちゃうよ。入りなよ。」
それから私はずっと彼に恋していた。勝手に側によって、他愛の無い話をして、他の人みたいに恋人になりたかった。でも、あの人はいつも空を見ていた。その先にいる誰かを待っていることは薄々気づいていた。
雨が降っていれば、この人は傘があるから、きっと気づかないはず。彼を呼ぶ声も届かないはず。雨が降っていてくれれば…。
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