六月のある日のこと(ニ)

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 どれくらい経っただろうか。外から雨音が聞こえなくなった。どちらから言い出すこともなく、二人は店を後にした。  入り口を出たとき、まぶしい光が二人に降り注いだ。空には虹がかかっていた。男が思わず口にした。 「こんな虹は久しぶりに見たよ。」 「きれい…。」  少女がつぶやいた。しかし男の耳には別の声が聞こえていた。 『あなた…』  その声は少女には聞こえなかったが、男にははっきりと聞こえた。男は歩き出した。声の聞こえたほうへ、虹のほうへ。  待ってと袖を強く握ろうとしたが、少女の手は空を掴んだ。男は駆け出していった。雨上がりの参道を。足は緩やかに地面から離れていった。 『思い出した。傘を嫌いな理由を。君が空を好きだったからだ。』 『あなたがいなくなっても、きっと待ってくれていると思っていたの。待たせてごめんね。』 『僕こそ、待たせてしまってごめんね。』 『ありがとう。』  少女は、光となって消える男と、それに寄り添う優しい光とを、ただ見ているしかなかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!