1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
どれくらい経っただろうか。外から雨音が聞こえなくなった。どちらから言い出すこともなく、二人は店を後にした。
入り口を出たとき、まぶしい光が二人に降り注いだ。空には虹がかかっていた。男が思わず口にした。
「こんな虹は久しぶりに見たよ。」
「きれい…。」
少女がつぶやいた。しかし男の耳には別の声が聞こえていた。
『あなた…』
その声は少女には聞こえなかったが、男にははっきりと聞こえた。男は歩き出した。声の聞こえたほうへ、虹のほうへ。
待ってと袖を強く握ろうとしたが、少女の手は空を掴んだ。男は駆け出していった。雨上がりの参道を。足は緩やかに地面から離れていった。
『思い出した。傘を嫌いな理由を。君が空を好きだったからだ。』
『あなたがいなくなっても、きっと待ってくれていると思っていたの。待たせてごめんね。』
『僕こそ、待たせてしまってごめんね。』
『ありがとう。』
少女は、光となって消える男と、それに寄り添う優しい光とを、ただ見ているしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!