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彼女の桜、彼女の恋。
向かい側に座っている美佳が、物憂げな表情でほつれた髪を右耳にかける。露わになった耳たぶにはガーネットのピアスが刺さっていて、それが控えめに煌いた。
よく目にする光景なのに私は飽きもせず彼女に見惚れてしまった。同じ女なのに何でこんなに違うのか、と落ち込む時もあるけれど、けっきょく私は美佳の整いすぎた顔が大好きで、いつもその仕草に目を凝らしてしまう。
窓際の席がいけないのかもしれない。カーテンの隙間から零れる陽の光で、美佳の艶のある黒い髪や、長い睫や、整った鼻の形が余計際立って見えるのだ。
美佳があきれたように鼻で笑った。
「早く食べなよ」
食べかけのメロンパンを指差され、私はパンを掴み口に運んだ。
美佳はすでに持参したお弁当を食べ終わっていた。自分だけ食べている所を見られるのは恥ずかしくて、口の中のものを味わうことなく急いで飲み込んだ。美佳との付き合いは中学生の頃からなのに、未だに二人で話していると緊張する。そんな自分が情けない。
美佳が机にかけていた鞄からスマートフォンを取り出した。私は少しほっとしながら、半分残っているサラダをさっきよりもゆっくりと口に運ぶ。
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