被写体はどっち?

1/1
前へ
/1ページ
次へ

被写体はどっち?

「先輩、ちゃんと撮ってますか?」 「ん? あ、ああ! 撮ってるよ」 「怪しいなぁ。せっかく私が付き合ってあげてるんですから、ちゃんとしてくださいよ」 「わかってるって」 「こんな雪の日にいきなり呼び出すんだから」 「仕方ないだろ。被写体は待ってくれないんだ。もしかして怒ってる?」 「いいえ、別に。寒さを我慢すれば、確かに良い風景ですしね」 「だろ? 昨日ここで蕾を見つけたときに、これだって思ったんだよ」 「梅ですよね」 「たぶんな。おまけに今日は雪も降ってる。この状況を逃す手はないだろ」 「そこで私を呼ぶ意図が分かりませんけど」 「それは、あれだ。一人より二人の方が互いの感性が刺激されて良い写真が……」 「だったら、他のメンバーも呼べば良かったんじゃないですか?」 「ば、ばか。大勢いたらこの静けさが壊れるだろ。雰囲気が台無しじゃないか」 「ふふ、まあいいですけど」 「君はもう少し先輩に敬意をもてよ」 「それは先輩が努力するべきところかと」 「まったく。さて、そろそろ本気で寒くなってきましたし、いいところで切り上げるか」 「もういいんですか?」 「十分もとは取れたよ。付き合ってくれてサンキューな」 「そうですか……あ! じゃあ、先輩。私が先輩の写真チェックしてあげますよ」 「い!? いや、いいって」 「なんでですか。代わりに私のは先輩が見てください。ほら、カメラ貸してください」 「ちょ、危ないだろ。あ! こら、返せって!」 「どれどれ――って、あれ? 先輩……これって」 「た、たまたまだ。梅を撮ったらたまたま君が写り込んだだけだ」 「その割にはピントがばっちり私に合ってますね」 「……」 「先輩?」 「……」 「黙ってちゃ分かりませんよ」 「……その、ごめん。良い写真になると思ったんだ。本気で。嘘じゃない」 「いえ、別に……怒ってませんよ。ただ、黙ってこういうことをするのは感心しません」 「ごめん。本当に悪かった」 「いいですよ。許します」 「えっと、消さなくても大丈夫?」 「だって……悔しいですけど良い写真ですから」 「あ、いまの顔いい。撮らせてくれないか?」 「もう、調子に乗らないでくださいねっ」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加