被写体はどっち?

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被写体はどっち?

「先輩、ちゃんと撮ってますか?」 「ん? あ、ああ! 撮ってるよ」 「怪しいなぁ。せっかく私が付き合ってあげてるんですから、ちゃんとしてくださいよ」 「わかってるって」 「こんな雪の日にいきなり呼び出すんだから」 「仕方ないだろ。被写体は待ってくれないんだ。もしかして怒ってる?」 「いいえ、別に。寒さを我慢すれば、確かに良い風景ですしね」 「だろ? 昨日ここで蕾を見つけたときに、これだって思ったんだよ」 「梅ですよね」 「たぶんな。おまけに今日は雪も降ってる。この状況を逃す手はないだろ」 「そこで私を呼ぶ意図が分かりませんけど」 「それは、あれだ。一人より二人の方が互いの感性が刺激されて良い写真が……」 「だったら、他のメンバーも呼べば良かったんじゃないですか?」 「ば、ばか。大勢いたらこの静けさが壊れるだろ。雰囲気が台無しじゃないか」 「ふふ、まあいいですけど」 「君はもう少し先輩に敬意をもてよ」 「それは先輩が努力するべきところかと」 「まったく。さて、そろそろ本気で寒くなってきましたし、いいところで切り上げるか」 「もういいんですか?」 「十分もとは取れたよ。付き合ってくれてサンキューな」 「そうですか……あ! じゃあ、先輩。私が先輩の写真チェックしてあげますよ」 「い!? いや、いいって」 「なんでですか。代わりに私のは先輩が見てください。ほら、カメラ貸してください」 「ちょ、危ないだろ。あ! こら、返せって!」 「どれどれ――って、あれ? 先輩……これって」 「た、たまたまだ。梅を撮ったらたまたま君が写り込んだだけだ」 「その割にはピントがばっちり私に合ってますね」 「……」 「先輩?」 「……」 「黙ってちゃ分かりませんよ」 「……その、ごめん。良い写真になると思ったんだ。本気で。嘘じゃない」 「いえ、別に……怒ってませんよ。ただ、黙ってこういうことをするのは感心しません」 「ごめん。本当に悪かった」 「いいですよ。許します」 「えっと、消さなくても大丈夫?」 「だって……悔しいですけど良い写真ですから」 「あ、いまの顔いい。撮らせてくれないか?」 「もう、調子に乗らないでくださいねっ」
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