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「天野さん、私ちょっと所長に急用があるから、シゲさんの検温お願いね!」
『えっ、あの、せんぱ…』
天界ではエリートな私だけど、勉強ばかりしてきたものだから、天使らしい柔らかな雰囲気は愚か、所作さえ心もとない。
さらに下界へ来て、自らのコミュニケーション能力の低さも痛感している私が、人間を全うしてきた老人を前にどうすれば…。
「さらちゃんって言うのかい。」
その言葉で、保育園での修行を思い出した。
思えば名前で呼ばれたのはあの頃だけだったから。
『はい。』
「いい名前だな。清潔感のある君にピッタリだ。」
『えっと…』
「おお、突然悪いね。俺には子供がいないものだから。もしも孫がいたなら君くらいなのかと思ったんだ。」
『そう…ですか。』
老人は、私の素っ気ない返答にも嫌な顔一つせず、朗らかな笑顔を浮かべている。
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