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「俺が死んでもな、残るものが何も無いんだ。」
老人は目を伏せ、寂しそうに笑う。
『残るもの…?』
「ああ。俺はな、高校を出てからずっと出版社で働いていたんだ。それはやりがいのある仕事だった。しかし、俺自身を振り返ると、例えばベストセラーの本や、ベストヒットの歌を世の中に出したわけじゃない。もちろん、ノーベル賞なんてとってないしな。」
『それは…人間の大多数がそうなんじゃ…?』
「そうだな。」
シゲさんはまた寂しそうに笑った。
「去年、突然に亡くなった友人は、息子が2人、孫が4人いたんだ。葬儀にも、もちろんそいつらが居てな。じいちゃんを見送ってたわけだ。友人は死んだけど、あいつの遺伝子はしっかりと受け継がれて、今も立派に生きているんだ。そう思うとな、なんとも羨ましくなったよ。俺には何も残らないんだと、思い知らされた。」
『…。』
こんな時、なんて言えばいいのだろう。
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