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[ピピピピッ]
言葉の出てこない私を助けるかのように、体温計がその沈黙をやぶってくれた。
「はいよ、さらちゃん。」
老人は、何も無かったかのように明るく振舞って私に体温計を手渡した。
「ただ、聞いて欲しかっただけだよ。困らせてごめんな。」
『いえ、そんな…』
「なんだか、君を見てたら話したくなってしまったよ。」
そう言って優しい微笑みを浮かべた老人は、静かに窓の外に目をやった。
そこからは、すっかり葉の落ちた木々と、細長い雲の浮かぶ水色の空が見えた。
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