クローバーの卵

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「あのねー、四つ葉のクローバー探してんの」 「四つ葉のクローバー?」  よく見ると、その手元には数本の草の束が握られていた。 「あのね、恋のおまじない? 願掛けとか、そーゆーのしたくてね、ひまね、探しに来たの」 「ふぅん」  鼻歌交じりで自分のことを“ひま”って呼ぶ所がなんかアレだなぁって思ってたから、ひまりちゃんとは相容れなかったのかもしれない。  まぁひまりちゃんはそれに見合うくらい可愛い子だったから、別にハブられてたりはしなかったんだけど。 「ねぇ立夏、見て見てぇー。ハート型のね、かわいいクローバーたくさん見つけたんだぁ。ひま、コレお守りにするんだぁ」  そうはしゃいで、握った草の束を見せるひまりちゃん。  その葉っぱの形を凝視して、思わず「あ」と声をあげた。 「ひまりちゃん、ハート型のヤツってね、クローバーじゃなくてカタバミっていうらしいよ。よくクローバーに間違えられやすい葉っぱだって、おばあちゃん言ってた」 「…………。え? ごめん、何て? カタ──?」 「バミ」 「………………」 「………………」 「ねぇ、立夏」 「うん」 「そういう夢のない事はさ、言わないでくんない?」 「……うん、ごめん」  いつも猫なで声のひまりちゃんにマジなトーンで怒られた、小5の春。  ──それから、20年の月日が経った。
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