クローバーの卵

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 進級、進学、それから上京。  大学、就職を経て幾年月。  駅を出てキャリーバッグをゴロゴロと転がしながら自宅を目指すと、一気に日常に舞い戻った感覚に囚われる。  多少うんざりとはするものの、有休があと一日残っていると思うと気持ちが軽かった。  ハート型のクローバーがカタバミだと教えてくれた祖母が入院してしまったので、GW明けから数日後に有休を取るというズレたことをして、2、3日ばかり地元に帰っていた。  結論から言うと祖母は投薬治療と検査入院だけで無事に退院する運びとなったわけだけど、要はお見舞いにかこつけて帰省したようなものだった。 「……あ!」  ふと、キャリーバックのローラーが、橋の袂にガンッと当たり、思わず声をあげてしまった。  その拍子にバッグに体を持っていかれるようによろけてしまう。 (ひぃ~~、重いぃ~~)  こんな自分の荷物でよろけてるような、ひ弱人間。  我ながら情けないとも思うけど、心のどこかでこれが自分の突出した個性のようにも思える。  華奢だとか、か弱さだとか──あざといけど、誰かに手を差し伸べてもらえるような脆弱さ。 「あのぉ」 「大丈夫ですか?」  女性二人組に声を掛けられ、お構いなくとペコペコ頭を下げる。 「あっ、すいません、大丈夫です」  そう、声を掛けてくれるのは大概女性。  ……まぁ、そう簡単に素敵な殿方に手を差し伸べてもらえたら苦労しないんだけどね。
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