クローバーの卵

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 帰省先に彼女の面影はどこにもなかったけど、地元で過ごす日々はそれなりに楽しかった。  ──あることを除いては。  高校の時に好きだった男の子が小さな子供と奥さんらしき人を連れて歩いているのを見かけたのは、ショックを通り越して将来への不安や自己を省みる境地にまで至ってしまった。  結婚……子供……。  もうそんな人生の階段の中盤に差し掛かるほどの年齢になっていたのかと思うと、絶望しないまでもやるせない気持ちになる。  ──と、思わず零れそうなため息を押し殺す。  そんな場合じゃなかった。  帰省している間、こっちではある騒動が起きていた。 (──さて、そろそろかな)  通行の邪魔にならない場所に歩みを止めてキャリーバッグを傍らに置き、携帯を取り出す。  普通に電話するかトークアプリの通話機能を使うかで迷ったけど、結局着信履歴にある彼女の名前と番号を選んだ。  電話にすら出やしないんじゃないかと危惧していたが、しつこくコールし続けていると──  プツッと反応があった。
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