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「なんか食べる?」
「……ほっといて」
お、やっとまともな返事した。
その声は掠れてるやら甘えてるやら。
「何もいらないもん。なんも食べたくない」
「ふむぅ」
いつまで殻に籠ってる気なのか、部屋のドアはしーんとしていてちっとも動きそうな気配がない。
「とりあえず何か食べないとダメだよ」
言いながら、もう一度冷蔵庫内を物色しようと冷蔵庫を開ける。
……ってなんだかお母さんみたいになってるな。
「あ、」
賞味期限ギリギリのベーコンがある。
テーブルを振り仰ぐと、バスケットの中に食パンまであるじゃないか。
「ベーコンエッグ食べる?」
「……」
「返事ないけど、勝手につくっちゃうからね」
と独り言風に呼び掛けた後、コンロでフライパンを温め、油を垂らしてベーコンを焼く。
じゅうじゅうと焼く音とベーコンの匂いが漂う。
買った卵をパックから取り出し、1個、2個、ぱかーんと割り入れる。
卵の匂いまで加わり、一層フライパンの中は賑やかに。
「おー美味そう。何気にベーコンエッグとか久々だわー。帰省中は実家で和食づくしだったからさー」
蓋をして焼き上がるのを待つ間にパンでも焼こうかと思い、パンを用意しようとすると──。
ドタドタッ、バタンッと物音がした。
「んああああ!もう!」
部屋のドアを勢いよく開けて出てくる彼女。
髪はボサボサ。
だけど部屋着はフリルのついた、メルヘンチックな可愛いヤツで。
「いい匂いするぅぅぅ!」
泣きそうな顔で、ちくしょうと言わんばかりに悔しそうに叫ぶ彼女。
「おお、復活したね、“ひま”」
天岩戸の天照大神みたいに部屋からようやく飛び出した彼女を見ながら。
“僕”は、笑った。
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