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「え? 明後日、仕事に行くことになったの?」と波木華(なみきはな)は驚く。
「ごめん。同僚が入院したみたいで人手が足りないんだよ」と申し訳なさそうに波木陽太(なみきようた)は言う。
「えー! 遊園地はー!」と波木雛(なみきひな)は顔を曇らせる。
「ごめんな。土曜日はママと一緒に遊園地で楽しんでおいで」と陽太は雛をなだめるように言う。
「パパも一緒がいい!」と雛はごねる。
「わがまま言わないの。ほら、明日も保育園あるんだから、もう寝るわよ」と華は雛をたしなめるように言う。
華は、ご機嫌斜めの雛を寝室に連れていく。
しばらくして、雛を寝かしつけた華が、寝室から陽太のいるリビングに出てくる。
「料金の安い日付指定のチケットにしなければよかったわね」と華は残念そうに言う。
「雛には、本当に悪いことしたな」と陽太は言う。
「仕方ないわよ。社員なんだから。普段から土日のどちらかは休日になるように融通利かせてもらってるし、断れないでしょ」と華は言う。
「うん。代わりに明日が休みになったよ」
「そう。じゃあ、今日は映画に付き合ってもらおうかしら」と華はレンタルDVDをケースから取り出す。
「え、今から? 明日もパートあるんだろ?」
「平気よ。2時間映画だし」とテレビをつける。
2人で並んで座り、映画を鑑賞する。
映画でヒロインは偶然、夫が他の女性と抱き合っているかのような姿を目撃し、浮気と誤解して、その場から走って立ち去るシーンが映し出される。
しかし、夫はつまずいた女性を受け止めていただけである。
「ふつうは、まず愛する人を信じて、事情を聞くよね」と華は言う。
「話も聞かず決めつけるのは、だめでしょ」と華は軽く首を横に振る。
「まあ、映画だから」と陽太は笑う。
「もし、陽太が他の女を抱きしめたり、キスしたりしてるところを見ても、私は陽太を信じるし、話を聞くまで自分の中だけで決めつけないからね」と華は陽太を見る。
「それって、どんな状況?」と陽太は笑う。
「例えば、つまずいた女を受け止めたとか、女の方から急に抱きついたり、キスしたりしたとか」と華は言う。
「そうだね。俺も華のそういうところを見たとしても、何か事情があったんだって、華を信じるよ」と陽太は笑いながら言う。
2人は並んでテレビを見ながら手を重ね合わせ、幸せそうに笑い合う。
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