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遥はそれだけ言うと、真っ白な腕を上げ、僕に『さようなら』というように、細い手を小さく振った。彼女の肩から下げられた小さなショルダーバックが、西陽に反射して、まるで夕景に溶け込んでいくような光景に、はっと息をのむ。
「またね」
言葉にしなくても、なんとなく分かりあえる。きっと僕らは、想いを言語化する以前のアモルファスな感情を、共有している時間を通じて感じあうことができる。
黄昏に浮かび上がる遥の小柄なシルエットを見送って、夕景に染まっていく街を前に、帰りの普通列車を待つ。そんな何気ない日常がずっと続くのだと思っていた。
――またね。
また……。それは反復を意味する言葉であり、その反復を願う言葉でもある。しかし、時に反復は二度と訪れない。日常は突如として誰しもが予想もしなかった方向に舵を切ることもある。そんな切り返しは、誰かにとっての希望かもしれないけれど、別の誰かにとってみれば果てしない絶望だったりする。
出会いは偶然や奇跡で語られ、別れは必然のように語られる……。そうなのだとしたら人はなぜ、誰かと出会うのだろうか。もう二度と会うことができないことが必然ならば、いっそのこと、偶然や奇跡なんて望まないし、最初から全てを無かったことにしてほしいと願うことさえある。
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