第1話: ペンローズの三角形

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 友人は、『それは違う。共に過ごした時間を大切にしないと』 なんて言っていたけれど、人の願いに正しいも誤りもないだろう。過ぎ去った時間が大切なものであったとしても、それがどれだけ愛おしいものであったとしても、そんな過去が救いになるとは限らない。心に開いてしまった大きな穴は、過去という時間の大きさに対して非線形的に拡大していく。 ――ペンローズの三角形。  それは三本の真っ直ぐな四角柱がそれぞれ直角に組み合わされていながら、全体で三角形を形成している構造体のことだ。これを通常のユークリッド空間における三次元の物体として具現化させることはできず、ある種の三次元多様体でのみ存在できるという。  過ぎ去った時間に手をのばそうとしても決して届かない。不可能性の最も純粋な形。過去はペンローズの三角形だ。
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