第2話:春の倫理とコペルニクス的転回

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 公共交通機関は一部を除き、全線が運休している。現在運行されている列車は、全て防衛省市ヶ谷庁舎中央指揮所(Central Command Post)の管理下にある。  『一昨日、小惑星探査衛星 、ソラカゼによって発見された小惑星は、直径が25メートルほどあり、このままの軌道で地球に接近すると、東京都南部を直撃する可能性が非常に高いと見積もられています。直撃した場合の最大被害予測はご覧の通りです……』  日本の政治経済中枢が、あと数時間で消滅する。そんな報道にリアルさが持てないのは、小惑星が地球近くを通過し続けていたことを過去数千年にわたって知らずにいたということがありうるのか、という問いに集約されているのかもしれない。  テレビは、東京駅のプラットホーム上空の映像に切り替わる。衝撃波警戒区域外へ向かう人々が、特別ダイヤで運行される列車に吸い込まれていく様子が映し出されていた。  僕らはあまりに平和な日常に慣れきっている。そんな日常に不思議さを見出すことの方が難しい。せいぜい、異常気象や地震などの災害が起こるたびに、人間の振る舞いや思考なんて、世界を形成している物理法則に比べたら、どこまでもちっぽけな存在なんだと思い知らされる程度だ。     
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