第2話:春の倫理とコペルニクス的転回

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 一見すると不思議でも何でもないけれど、でもよくよく見てみれば不思議なことなんて沢山ある。モノの見方や考え方は、だいたいにおいて特定の価値観に支配されている。 ――すべての科学、すべての哲学は、啓発された常識である。  だれが言ったか知らないけれど、常識とはそういう仕方で成り立っている。 「優樹(ゆうき)くん、小惑星はね、火星と木星の間にたくさんあるのよ」  (はるか)は小学校の理科専任教師だった。大学では宇宙物理学を専攻していたと言っていた。物理学があまり得意でない僕には、彼女の難しい話はよく理解できなかったのだけれど、星座の話や、惑星の話はとても興味深かった。 「プトレマイオスは知っているでしょう?」  毎月のように二人で通ったプラネタリムの帰りに、遥とそんな話をした。それは付き合いだしてちょうど一年の月日が流れた頃だったと思う。四月初め、夜の風が少し暖かい、そんな日だった。彼女を自宅まで送る途中、住宅街から少し離れた場所を流れている川沿いを歩いたんだ。そう、この日は河川敷に植えられた桜が満開だった。 「ああ。知ってるよ」  クラウディオス・プトレマイオス。地球は宇宙の中心に存在していて静止しており、全ての天体が地球の周りを公転しているという天動説を唱えた人物だ。     
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