第3話:置き去りにしてしまった願いを……

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第3話:置き去りにしてしまった願いを……

 人が消えた街の中、僕は通い慣れた新橋方面へ向かって歩いている。巨大な高層ビル群から覗く午後の空は、いつもより光の量が多い。車が全く走っていないのは、東京都が発令した戒厳令のためだ。主要幹線道路を含め23区内の車道は全面通行禁止となっている。  いつだったか(はるか)と二人で歩いた品川インターシティーもこんな景観だったように思う。平日の深夜だからなのか、人影も少なく、それでも近未来的なデザインの巨大な建造物は確かに息づいていて、そのギャップが不思議な空間だった。人の存在が限りなく薄いのに、照明は煌々と照らされ、街だけが生きている風景。僕らはそんな空間を抜けながら、品川駅に向かって歩いていた。 「授業参観、来てみる?」  いつもと同じように唐突に始まる遥との会話。その文脈を探りながら彼女に視線を向けてみる。少し幼い彼女の表情に、まるでいたずらをしたばかりのような、少年のあどけなさが含まれていた。 「小学校に通わせるような子供がいるように見えるかい?」  遥と結婚をして、いずれ子供を授かることができたのなら、僕にもそんな日常を経験することができたのだろうか。 「ふふ。そんなふうには見えないわよ」     
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